‐彼と彼女の恋物語‐
「……雑誌」
引っ掛かった紙袋からでてきた数冊のそれら。端からこういった系統には興味がない彼女は触れることに躊躇う。
そっと、慣れない重さを持ち上げると表紙に気になる文字がある。
つい、視線で追ってしまう。
“作家・野上 敬、連載開始”
他にも何か書いてあるような気がしたがその文字だけでだいたいのことは理解できた。
ペタリ、力尽きたように冷たいフローリングに座りこみ、ぺらぺらと不器用にそれを捲る。
すると、後半の方に、4ページ程にわたって彼の写真と、その上に何か文字の羅列が見える。
無表情を決め込んだその顔はどれも先ほどまでいた彼とは違うような気がして、よくわからない。不思議な疎外感を味わう。
そっと、小さな文字を読めばそれは詩のようなもので、一話完結な小説らしい。
幼い子の、淡い恋物語を描いてあるみたいだ。