‐彼と彼女の恋物語‐
食事の片付けが終わると彼女の仕事も終わる。
エプロンを畳んでバッグの中にいれるとミーヤのご飯と水を確認。そして彼がいる仕事部屋のドアを小さく叩く。
「帰んの…?」
ガチャリ、開いたドアから見下ろす長身の男に頷くと何を思ったか。
「送ってく」
と、部屋の鍵を持ってきた。実は特に会話もなく、問題もなく進んだ食事は何故か時間がかかりいつもより片付けが遅くなってしまったのだ。
「歩いて10分ですよ」
「その10分の間に襲われない保証でもあるの?」
「夏なので明るいし」
「夜は夜だ、行くよ」
ごく自然な動きで彼女は手をとられて不自然に歩き出す。
文句を言おうにも前を歩く彼の背中から得体のしれない拒否反応が出ているため、きっと何を言っても足蹴がおちだ。
変に喋りかけて嫌われたくない。そう思った彼女は黙って手を引かれることにした。