‐彼と彼女の恋物語‐
彼女からしたら彼が一方的に話しているようにしか聞こえない。相手の言葉が全然聞こえないから。
暫くすると彼は電話口で舌打ちをしてみせて苛立たしげに機械の電源をぶち切った。
「ああ、もうあいつ…」
「―――」
苛々した様子をなんとか納めようと吐き出された息はとても重い。
初めての体験にどうしたらいいのかわからなくて彼女はただただ息を殺す。
ちらり、美形はそんな彼女に内心焦りながらも自分の態度の対処方法がわからず、とりあえず抱き締める。
「――せんせ、大丈夫ですか」
「うん。ごめん、熊谷さんにムカついた」
「……何かあったんですか?」
「―――否、何もないよ」
“ナニ”かが明らかに含まれているのに敢えて触れない。ぐっと、喉元まできた問いを飲み込む彼女。
とくん、とくん――…。
少しずれてる鼓動に、次の瞬間、違う音が混じった。
ダダダダ…バン…―――。
「外にマスコミ張ってんだけど」
その音を立てたのは今しがた彼女を抱き締めている彼を激怒させた張本人、熊谷さんだ。