‐彼と彼女の恋物語‐

八物語。




―――――――…………

――――…



小さなアパートでひとり、少ない荷物を整理しつつ明日、明後日着るものだけを用意して後は元々段ボールのなかに入ってるから手っ取り早くガムテープで口を閉じる。



それ以外は小さな冷蔵庫とシングルベッドくらいなのでほとんど準備はできている。



時刻は真夜中、零時。シンデレラならば硝子の靴を落として王子様が迎えに来てくれるが残念ながらファンタジーではない世界は淡々と物事が進んでいくだけ。



「シンデレラなら、よかったのに」



そう呟いた己に彼女は数秒してから驚く。知らず知らずのうちに彼の浮遊しているような笑顔や行動に感化されていたようだ。


それでも、彼に溺れてしまった今の彼女にとっては今さら元通りの自分になれないジレンマを抱くだけ。



中途半端に人間臭くなってしまっていた。



「……(熱愛、か)」



ベッドに沈むそれはついさっきまで彼女が駆使していた名残を残している。真っ黒の携帯画面に少しだけ指先を触れる。



一瞬でけたたましい程の光を放つそれには“山下あずさ”という女性の検索結果が羅列している。



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