‐彼と彼女の恋物語‐



冷めたような睨むような目をしているのに唇を噛む仕草は涙を耐えているようで、瞳から放たれる意味合いが強がりに感じられる。



画面にはどれも山下あずさ、マンション、お泊まり、スピード恋愛、熱愛、小説家という似たような文字ばかりが表示されている。



そのなかの全てに関連しているのが彼だ。結果は全て彼に行き着く。


細い指先でスクロールして適当に文字を押す。と、すぐに出てきた次なる画面には見覚えのありすぎる場所に女性の姿の写った写真がでた。



山下あずさだ。


昨日、彼の部屋のリビングで見つけた雑誌のなかの記事に二人でインタビューを受けていたのを彼女は覚えていて、先ほど検索したときにみた山下あずさをみて少し納得した。


とても綺麗でまさしく美人と言われるに等しいひと、それに彼と並んでいても釣り合っていたから。



確か彼は以前に言っていた、山下あずさと仕事があると。それが雑誌のことで、きっとそれから知り合うようになったんだろう。



「あのひとだったんだ…」



ネクタイを届けにきた綺麗な声の正体は、山下あずさだということを一連の報道によって知らされた。



それと、



―――彼が今“恋愛中”だということも。



メディアによる報道によって、知らされた。



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