‐彼と彼女の恋物語‐
表のエントランスにはマスコミがいるので、事情を知っている警備員に形だけの会釈をして裏口に回った。
早くこの場を去りたくて、走った。駆け抜けた場所には細い路地。そこさえも走り抜けてやっと足を止めたのは大通りにでたときだった。
「はぁっ、はっあ」
慣れてないことをした代償に荒れる呼吸。息をするのが苦しかった。
行き交う人々はそんな彼女を不思議なものを見るような目で視界の端に捉えるだけでさほど注目されてはいない。
だが、些か居心地は悪く彼女は荒い息を無理矢理押し込めるようにして歩み始めた。
暫くして呼吸が落ち着くとあまり見覚えがない場所にたどり着いた。
前とあまり差がないそれは所々に違いがみえるくらい。
彼女の目の前にあるのは三階建ての小さなアパートだ、独り暮らし用の。
違うのは場所くらいで以前と違って階段を上らなくてよい一階。安っぽい鍵を手にして差し込めば軽い扉が開く。
段ボールに冷蔵庫にシングルベッド。
そう、彼女の新しい家だ。