エゴイストよ、赦せ
「また難しく考えてるんだろう?」


「そんなことないよ」


そう、何も難しくなんかない。

とてもシンプルな感情だと思う。


三鷹は顔を上げ、メニューを広げたまま僕に渡してくる。

僕が受け取ったメニューへ視線を落とすと、テーブルの向こうでライターの火を点ける音がした。


「俺はさ、ずっと謝り続けているんだよ」


三鷹の言葉に、メニューをめくる動きが止まりそうになった。


「彼女が自殺してから、今日までずっとだ。赦してくれ、赦してくれって」


少しの沈黙のあと、三鷹はさらに話を続けた。


「俺はいったい、アイツの何を見ていたんだろう。もっとしっかりとアイツを見ていれば。アイツに何か言うべきではなかったか? 何かできることはなかったか? 毎日そんなことばかり考えてるよ」


その言葉が、一年前の自分と重なって、胸がチクリと痛んだ。


僕はためらいがちに顔を上げる。

三鷹の視線は、右手の煙草の先に向いていた。

僕の視線に気づいたのか、三鷹は僕を見て笑ってみせる。

初めて見る表情だった。
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