エゴイストよ、赦せ
朝、起きる。

煙草を吸う。

顔を洗い、歯を磨く。

シャワーを浴びて、スーツにネクタイ。

満員電車に乗って会社に向かう。

同僚には、それなりの笑顔とそれなりの社交辞令を。

与えられた仕事をこなしながら、上司が望んでいるであろう提案を、部下に嫌がられない程度に。

就業後の酒にも適度につきあう。

口から出る愚痴。

不安と不満。

少し受け止めて、残りは聞き流す。

円滑に廻る仕事、人間関係。

これが正しい社会人というやつなんだろう。

帰りの電車の中、窓に映る僕の顔は、いつか見たような、同じ表情をしたその他大勢の一人になっていた。

そのことに、心のどこかで安心している自分に驚きながら、電車を降りる。
 

悲しくはない。

嬉しくもないが。

こんなものだろう。

みんな、きっとこんなものだ。

これが生きていくということ。

僕は生きていかなければならない。

それが、僕から彼女への……。
 

けれど、どうしてだろう。

それは、ときどきの、白いノイズ。

僕の中のずっと深い場所からの、小さな警告。

朱い色が心臓の鼓動に合わせて点滅を。


大丈夫、僕は大丈夫だよ――。


消えてしまいそうなそれを、僕はそっと両手で包み込むようにして、眠りに落ちていく。

そんな毎日を過ごしていた。
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