エゴイストよ、赦せ
キック、スネア、ハットがゆったりとしたリズムを刻み始めた。


右側のスピーカから、美しいギターのアルペジオが、浮遊感を醸し出す。


ベースが唸ると同時に、もう一本のギターが美しさを切り裂くように入ってくる。


屈折した想いを叩きつけるかのような印象を抱くギターのリフ。


そして、聴こえてきたのは懐かしい歌声だった。


狂おしく切ないメロディ・ラインを、やや掠れた声が愛でていく。


Bメロの入りで転調し、それまでを打ち消そうとするかのようにキャッチーなメロディに変わり、サビに入ると、反発し合うかのようだった二本のギターは、絡み合い、一体となった。


曲が終わっても、僕は動けない。

マウスを持つ手が少し震えていた。


この歌声、歌い方、コード進行の癖、ギターソロでのチョーキング。

間違いない、“あのひと”だ。


我に返った僕は、再びマウスを動かし、再生ボタンをクリックする。


僕の耳には、スピーカからの音しか聴こえていなかった。



< 112 / 128 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop