エゴイストよ、赦せ
掌の花びら
僕がマフラーをしなくなってから、三度目の冬が通り過ぎた。
電車が駅に着くと、薄汚れたシートに座っていた僕は立ち上がり、ホームへと降りた。
辺りを見回すと、のどかな田園風景が視界に入ってくる。
風が少し冷たかった。
ホームから乗換え口のある階段を上ると、ゆったりとしたスロープになっていた。
そのスロープをゆっくりと進み、目的のホームへたどり着いた僕は、空いているベンチに腰を下ろす。
このホームの電車の中で、初めて会ったんだ。
彼女に。
どうして、この電車に乗ったんだっけ?
僕はあの日、どこに行こうとしていたのかを、思い出そうとした。
そうか、ライブハウスだ。
知り合いのライブじゃなかったかな?
曖昧な記憶が少しだけ甦る。
そうだ、あのライブには、あのひとも来ていたな。
晃子《あきこ》さんも一緒だった。
あの頃には、もう……。
晃子さんとの会話を思い出す。
あのひとからエアメールが届いてから数日後、僕はあのひとの恋人だった晃子さんに会いにいった。
あのひとは、晃子さんにもエアメールを出したかもしれない。
けれど晃子さんは引越しをして住所が変わっている。
エアメールは届かないだろう、と思ったからだ。