エゴイストよ、赦せ
今ならわかる気がする。

あのひとは、逃げ出したのではなく、前に踏み出したんだ。


嫌いになりたくなかったから。

音楽を。

ギターを。


あのひとの歌。

まるで、どこからか僕を見ていたかのような歌詞は、あのとき、僕の心情に重なったけれど、あの歌は、あのひと自身を歌ったものだと思う。

昔の自分に向けて書いた曲なのだと、僕は思っていた。


あのひとも、ローサも、三鷹も、きっと晃子さんも。

それから絵莉だって。

それぞれに、みんな、自分の足で歩いて。


僕らは空を飛べるわけじゃないから。

この地上で、もがきながら、這いずりながら、カッコ悪くたって、一歩ずつでも、前へと。

今も、きっと、みんな、どこかで。


僕も行こう。

どこへ行こう。

ゆっくりでいい。




――アナウンスが流れて、ホームに電車が滑り込んでくる。


暗い地中の中では、見えないものがあるように、地上のまばゆい光の中にも、埋もれてしまっているものがあって。


光ばかりを追いかけていくうちに、それが見えなくなって。


遠くばかりを見ていると、気づけなくなるんだ。
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