エゴイストよ、赦せ
電車が彼女の降りる駅に着くと、彼女は自分の腕を僕の腕に絡ませて立ち上がる。

僕は彼女に引っ張られるままに電車を降りてしまった。

どうして自分も降りるのか? と問う僕に、あたしが降りるから、と答えた彼女はクスクス笑いながら、「これのお礼に食事をご馳走する」そう言って、まだ彼女の首に巻かれたままの僕のマフラーを指で掴んでみせた。



 
駅前に在るスーパーマーケットの前で、僕らは煙草を吸った。


容赦なく襲ってくる風の冷たさに、手がかじかむ。

白い煙は、煙草なのか、吐息なのか、判らない。


見える風景は、まるで擦り切れた絵のよう。

寒さに身を縮め、うつむき加減で重そうな足取り、虚ろな目をして、駅に向かう人々。

人々? いや……、人類はもう死んだ。

あれはゾンビの行進だ。

死んでいるのか、生きているのか、判らない。


「二十四時間営業って便利だよね」とニコニコ笑いながら言う彼女も、解らない。


解らないままで、ここに居る僕も、やっぱり解らないだろう。


世の中って“わからない”ことの方が多いのだ、と思う。


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