エゴイストよ、赦せ
短くなった煙草を店頭に設置されている灰皿に押しつけながら、僕は尋ねた。


「あのさ、もしかして、君の家で食べるの?」


「そうだよ」


あたりまえでしょう、とでも言いたげな表情で彼女が答える。


疑問には思った。

思ったけれど、実際に「そうだよ」なんて言われると、やはり驚いてしまう。

だって、僕らが交わした会話はトータル一時間にも満たないんだから。


「はい、行くよ!」


そう言って彼女は、店内へと入っていってしまう。

こっちだよ、と颯爽と歩く姿は、ツアーガイドみたいだ。

旗は持たなくてよろしいのですか、と言ってやろうかと思ったけれど、黙っておいた。

言わない方が良いことだってある。

いや、どちらかといえば、そういうことの方が多いんじゃないかな、世の中って。


僕は仕方なく、彼女の後ろに続いて歩いた。
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