エゴイストよ、赦せ
ベッドの上に寝転がり、カフカを枕元に置いた。

自分のMP3プレイヤーで音楽を聴く。

ナイン・インチ・ネイルズ、ジョー・ヘンリー、斉藤和義、セックス・ピストルズ、スーパーカー、ドアーズ、シックス・バイ・セブン。

曲がランダムにかかり、流れていく。

カフカは読まなかった。

オアシスの『ストップ・クライング・ユア・ハート・アウト』へと移ったとき、ローサが帰ってきた。


「ただいまー」


笑顔のローサの後ろから、女性の声。


「お邪魔します」


ローサに紹介されて、挨拶する。

彼女は、絵莉《えり》と名乗った。

白いロングコートに、淡いグリーンのストール。

着物が似合いそうな端整な顔立ち。

長い黒髪が印象的だった。

清楚なお嬢様、といった感じだ。

お嬢様なんて、会ったことはないのだけれど。


僕が夕食を作っている間、ローサと絵莉は、ずっと楽しそうに会話していた。

時折、ローサがこちらを見て微笑む。

僕は気づいていないフリをした。
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