エゴイストよ、赦せ
会社の同僚と飲んでいたとき、誰かが言った。


「人生ってパズルと同じなんだって」


何人かが頷く。

僕も酔った頭で「そうだな」と思った。


別の誰かが続けて言う。


「足りないピースを、埋めていくんだよ。自分にとって大切なものを見つけるってこと」


それで知った。

僕は病んでいる、と。


僕は完成したパズルが、壊れていくことを想像していた。

ピースが欠けていく。

ひとつ、またひとつ、と大切な何かを失くしていく。

最後は全部失って、もう、パズルの絵が何だったのか、いや、絵だったのか、写真だったのかさえも、わからなくなってしまう。

歌を忘れたカナリヤと同じ。

自分の名前も思い出せやしない。

そんなイメージ。


グラスの下の安っぽい紙製のコースターは、そのイメージを吸い取ってはくれなかった。

僕は店員に冷たい水を頼み、いっきに体の奥へと流し込んだ。

グラスの氷が溶けても、嫌な苦さは残ったままだった。



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