エゴイストよ、赦せ
ショパンのピアノエチュード第3番が頭上で流れた。

美しすぎて、とても悲しいメロディだ、と思う。

僕は腕を伸ばして、携帯を手に取る。

ローサからだった。




 『まだ寝てる? 
  起こしちゃってたらゴメンね――』




それに続く言葉は、今日何を食べたかとか、新しくできたカフェの話とか、そんなどうでもいい内容だった。


ローサの顔が浮かぶ。

メールを打ちながら、いつもみたいに笑っている顔。

けれど、何故かいつもより、少しだけ悲しい顔にも思えた。


それを振り払い、僕は適当にメールの返事を書いて送り返した。 


解っているよ。

大人になるってことは、鈍くなるってことだ。

痛みとか、汚れていく自分とかを、だんだん感じなくなっていく。

だから……、生きていけるんだ。

やっぱりそうだよ。

失くしていくんだ。

大切なものを。

だけど……、だけどさ!
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