エゴイストよ、赦せ
「少し疲れが溜まってただけだよ。寝不足だったし」


嘘ではない、と思う。

眠れないんだ。

それは、忙しいというだけではなくて。


「びっくりしたんだからね」


「ごめん。ずっと起きてたの?」


「うん。あっ、大丈夫だよ。あたし、今夜は休みだから」


「そう……」


「うん」


無理しているんじゃないのか? そう思ったけれど、僕は何も言えなかった。


「水、飲みたい」


「わかった。待ってて」


キッチンに向かうローサを見ながら思い出していたのは、母親のことだった。

幼かった頃、熱を出した僕を、こうやって看病してくれたっけ。

僕が唯一憶えている、母のやさしい顔だ。


水の入ったグラスを手にして、ローサが戻ってきた。


「はい、お水」


僕は身体を起こしてグラスを受け取り、半分ほど飲む。


「ありがとう」ローサにグラスを返し、また横になる。


「食欲はある?」ローサがきく。


「いや、ない」


「何か食べたほうが良いと思うんだけど……、お粥は?」


「欲しくない。スープとかの方が、まだマシかも」


「スープなら飲めるの?」


「たぶん。少しくらいなら、だけど」


ローサは頷くと再びキッチンへと向かった。

お粥を拒否したのは、母親のことをこれ以上考えたくなかったからだ。
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