エゴイストよ、赦せ
暖かい。

この部屋は暖かい。

ローサが居るからか? 

きっとそうなのだろう。

エアコンの性能とかじゃなかったんだ……。

玄関で彼女の姿を見たとき、解った気がした。


ずっと考えないようにしていた言葉が、頭をよぎる。

ローサが求めているもの……。

どうして、僕なんだ? 

あんな出会い方で、あんなにも簡単に抱き合って。

それに僕は、そんなもの信じていない。

とても不安定で、不確かなもの。

やがて消えゆくそれを、どうして信じられると言うんだ。


愛だろう。

愛情というやつだろう。

強い思い込みと、少しの錯覚が交差して生まれる感情じゃないか。

お祭りの金魚すくいみたいな。

意味もなく、それが欲しくなり、手を伸ばし、すくい上げ、手に入れた、そう思った瞬間、破れるその穴から逃げていく。


綺麗に言うなら魔法だ。

かかってしまえば、頭で考える理屈なんてどうでもよくなって、心は、突き動かされる衝動に支配される。

このひとこそが自分のすべて、そんなことまで思うかもしれない。

だけど、そんな幻想も長くは続かない。

魔法が解ければ、想いも溶ける。

飾り付けた言葉は剥がれ落ちる。

足元にしがみついて、「なんで? なんで?」と喚きだす。

空気の抜けた風船みたいに、心は急速にしぼんでしまうんだ。
< 48 / 128 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop