エゴイストよ、赦せ
「憧れてないし。憧れてるの?」笑いながら、僕はきいた。


「いいや、まったく」三鷹も笑う。


「そう言う自分はどうなるの?」


「さあ? 俺は、のらりくらりと仕事できる場所を希望したいね。この会社でなきゃダメなわけでもないしな。どこでもいいよ」


三鷹は、国立大の院を卒業している。

大学の研究室に勤務していたこともあるらしい。

僕と同期なんだけど、歳は彼の方が三つ上。

どういった経緯で、この会社に入社したのかは知らない。

『晴耕雨読ときどきワイン』という本があるらしく、憧れのタイトルだ、と言ってたっけ。


「そのうち、悟りでも啓きそうだよね」


「それはアイツだ」


僕の言葉に対して、三鷹は親指を立てて後ろを示した。


後ろの席には、三カ月前に中途入社してきた志村《しむら》が座って居る。

忍者かスパイか、というくらい気配を感じない男だ。

端末のキーボードを叩く音が聴こえなければ、彼が居ることを忘れてしまうだろう。
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