エゴイストよ、赦せ
志村は、陰で『ロボ』と呼ばれている。

仕事は、かなりできるのだけど、無口で無表情。

外見的な特徴といえば、眼鏡をかけていることくらい。

彼が喋る言葉の八割は、『はい』と『いいえ』だ。

そのため、上司や同僚からのウケは悪い。

彼の能力を知った僕と三鷹は、小田に頼んで、他のチームから引き抜いて貰った。

もうひとりの同僚は渋っていたけど、志村とふたりきりでのシフトはなし、という条件で納得してくれた。

仕事のパートナーとしては何の問題もない、と僕は思うのだけれど。

出世した同僚を、嫉妬の目で見ながら「おめでとう」と笑顔で言える奴らの方が苦手だ。


三鷹は、志村のことを「アイツはお地蔵さんだ」と言う。

なるほど、と思った。

ロボットみたいな冷たい感じではないんだ。

無口で無表情なのに、どことなくやわらかい空気を持っている。

まだ若いのに、すでに悟りを啓いているのかもしれない。

感情をすべて遮断すれば、心を汚されることはない、という結論に達したんじゃないのかな。

志村を見ていると、そう思えてくる。



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