エゴイストよ、赦せ
電車が踏切を通過する。

赤い光が床を滑って、警報の音がカンカンカンと鳴った。

その音が一秒遅れて、耳の奥で響いた。

ぽわーんと耳鳴りがして、視界が一瞬、もやに包まれる。


“今なら抜け出せるよ、この世界から”


深いリバーブのかかったパルス波が、僕の心臓を人工的にゆっくりと引っ掻いてみせた。

周囲360度から警告音が響く。

脳の回路はショートしそうだった。


目の前の床に映る僕の影が浮き上がる。

似たような模様を繰り返し描くように、電車の揺れに合わせて、弾んで踊って、後ろへ後ろへと流れていく。


やがて僕の影は、僕から切り離されて、ただの黒い塊になった。

ほら、次は僕の番だ。


ガタンゴトン――電車が揺れる。

僕も揺れる。


ガタンゴトン――窓が震える。

世界も震える。


視界から世界がズレそうになる。


それを繋ぎ止めた声は、やっぱり神様なんかじゃなかった。
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