エゴイストよ、赦せ
三鷹はまだ僕をじっと見ている。

少し間を置いてから、話を続けた。


「おまえ、少し前からよく笑うようになったよな? だけど、自分で気づいてるか? ずっと目が虚ろだってことに。……アイツもそうだった。たぶん、な」


「たぶん?」


「気づけなかったからな。そのときが来るまで」


「……その、三鷹の言う、俺に似てる奴って……」


「俺が昔……」三鷹はそこで言葉を切り、僕から視線を逸らす。


そして、もう一度僕を見てから、「俺が昔、理解し理解されていると思い込んでいた女だよ」と言った。


とても冷たい表情だった。


僕は何も言えず、三鷹もそれ以上何も言わない。

車道を流れる車の音だけが、その場に響いていた。


暫くしてから、「少し喋り過ぎたな」と三鷹は言い、いつものようにニヤリと笑ってから店内に入って行った。


ひとり残された僕は、店のドアに背を向けて、夜の街を眺めた。


他人に興味がないなんて言ったくせに、お節介な奴だ。


「馬鹿野郎」僕はポツリと呟く。


その言葉を風がさらい、街の灯りが届かない場所へと消えていった。

遠くに見えるビルの光と影の境界線が、そこだけを切り抜いたみたいに浮かび上がらせていて、この世界も嘘なのだと僕は知る。


三鷹の言葉が僕の耳を刺し、ローサの笑顔が浮かんでは消え、浮かんでは消え、を繰り返す。


少し悩んでから、僕はローサに電話をかけた。


「もしもし――」
< 64 / 128 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop