エゴイストよ、赦せ
僕の意識に割って入ってきたのは、僕の正面、反対側のシートに座っている二人の若い女の話し声。

それが、すべてを掻き消して、僕は世界に引き戻される。

どうして邪魔をするのだ?

さっきまでは黙って座っていたのに。

会話の内容なんて聞いちゃいないのだけれど、その車両には僕と彼女たちしかいないからなのか、さらにボリュームを上げて、僕に絡みつく。

電車の走行音の方が、大きく騒々しいはずなんだけど。


とにかく僕は一駅分だけ、それを我慢した。

一駅で済んだのは、始発駅の隣の駅で、彼女たちの一人が降りて行ったから。

『彼女たち』から『彼女』になったわけだ。


これで静かになるはずだ、と僕は思った。

実際、残された方の彼女が一人で喋ったりする、なんてこともなく、聞こえてくるのは電車の音と空調の音だけ。

それだけ。

そうだったのに……。
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