エゴイストよ、赦せ
ローサは、僕の腕を掴んだまま両手をゆっくりと下ろした。


「あなたに出会うまで、あたしの心は凍っていたの。あなたの笑顔が、あたしを救ってくれたの」


嘘だ、と僕は思った。

僕の頭はそう考えた。

僕が彼女に見せてきたのは、造ったものだ。

うわべだけが綺麗な。

写真のような薄っぺらさ。

そう、写真だ。

それがどんなに綺麗だとしても、その手で直に触れて感じることはできない。

彼女だって、本当はわかっていたはずだ。


だのに、何故だろう。

信じようとしていた。

彼女の言葉を。

彼女のひとつぶを。

僕の心が。

“信じたい”と願っていた。


ローサは、掴んだ僕の手を、今度は自分の胸へと導いた。


「聴こえる? あたしの声」


「……聴こえるよ」


「感じる? あたしの心」


僕は頷く。

何度も……、何度も。


「あたしの心を、あなたが溶かしたの」


ローサは、僕の頬に両手を添えて、やわらかなくちびるを押しつけてきた。


彼女はそのまま僕を引き寄せ、後ろに倒れるようにベッドに身体を沈ませた。


ああ、そうだったな――僕は彼女の魔法にかかっていたことを思い出す。
< 80 / 128 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop