エゴイストよ、赦せ
「どういうこと?」


「もう、日本には居ないの。あのコ、外国に引っ越したんだよ」


「いつ? 外国ってどこ?」


「二日前かな。どこなのかは、アタシも知らないの。誰にも教えないって言ってた」


絵莉の提案で場所を変えることにした僕らは、近くのカフェに移動した。


僕と絵莉は、店の奥の窓際の席に向かい合って座る。

注文した飲み物が運ばれてくるまで、僕も絵莉も何も喋らなかった。


店内には僕の知らないバラードの曲が静かに流れていた。


窓から差し込んでくる太陽の光が少し眩しかった。

窓の外に見える世界は、いつもと何も変わらないように見える。

せわしなく歩道を行き交う人々も、スムーズに流れることのない渋滞気味の車道も、何も変わらない。

昨日と同じで、二日前と同じで、ローサと最後に会った日とも同じ。

そう思えた。


このとき僕は、ほぼすべてを理解していた。

つまり、あの日ローサが言ったセリフは、ローサ自身のことだったのだろう。

外国に引っ越すのは、絵莉ではなくローサだったということだ。


桜が散ってしまうと言ったのも、一週間前から会うことも、電話もメールもしないようにしたのも、すべてはそういうこと。
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