エゴイストよ、赦せ
ローサはどうだったのだろう、と思う僕を見透かしたかのように、絵莉が言う。


「みーとは逆なんだよね、アタシって」


「逆?」


「そう、逆。あのコ、お店に出てるときは、あんな安心しきった顔は見せないよ。羨ましかったもん。アタシは、彼と一緒に居るときより、お店に出てるときの方が楽なんだよね。変でしょう?」


そう言って、絵莉は自嘲気味に笑う。


僕はローサのことには触れなかった。


「それは、隠してるからってこと?」


「そうそう。演じてるからね」


「なら、話せば良いんじゃない?」


「そんなの無理無理」


「どうして?」


「嫌われるに決まってるでしょう」


「そうかな?」


「そうだよ」


絵莉は、演じてる、と言ったけれど、そんな彼女だって、彼女の一部だろう。

絵莉と彼氏のことを想像していたら、どちらが本当の姿だとか、そんなに簡単なものでもないような気がした。


ひとの想いって、とても単純なものが、複雑に絡み合ってできている。

単純だから、解ってると思い込む。

けれど、伝えようとすると、すぐにほどけないから、うまく言葉にできない。

言葉を紡げば紡ぐほど、本当に伝えたい大切なことが、余計な言葉の中に埋もれてしまうことだってあるんだ。
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