エゴイストよ、赦せ
「どこで会った?」


「どこって、電車の中で」


「そう、電車の中。じゃあ、そのハンカチは誰の?」


「誰の?」


ハンカチに視線を落とす。

誰の、だって? 

もう一度、じっくりと見る。

煙草の煙を、ゆっくりと吐き出す。


「えっ!?」僕は思わず声が出る。


「これって……、俺の?」


ハンカチの右下に小さく刻まれているロゴは、僕が憧れていた“あのひと”が好きだったブランドのもの。

日本ではマイナーだけれど、当時の僕は彼の真似をして、同じブランドの服を買ってみたりしていた。

確かにこのハンカチにも見覚えがある気がする。


絵莉の顔を見る。 


「そうだね」煙を吐き出してから、絵莉が答えた。


どういうことだ? 

絵莉の言葉を頭の中で繰り返し、ひとつずつ整理していく。


僕はローサに会ってる? 


あの日よりも以前に? 


電車の中……、ハンカチ……。


くるり、くるりと廻る。


記憶を、辿り、なぞり、探る。


散らばっていたそれが、集まり、止まった。
< 94 / 128 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop