エゴイストよ、赦せ
長くなった煙草の灰が、ぽとりとテーブルの上に落ちた。
店内に流れる曲は、いつのまにか馬鹿みたいに陽気なロックへと変わっていた。
僕はどうしてか、知っているはずのその曲名を思い出せなかった。
「じゃあ、アタシはもう行くね」絵莉はコーヒー代と名詞をテーブルの上に置き、立ち上がる。
「手紙に書いてあること……、本当の気持ちだと思うよ」
彼女は僕の横で一度立ち止まり、そう言った。
あれほど疎ましかった光は散らばって、僕を振り切るようにスピードを上げて遠ざかり、視界の中から消えていった。
ひとり残されたテーブルの上、行き場のない煙だけが、僕の目に映っていた。
――その色が、朱い色が。
小さな灯が、いつまでもいつまでも。
暗闇の中で、あざやかにあざやかに。
ジッ、と。
ジジッ、と。
微かに聴こえるその音が。
寄せては引き、引いては寄せて。
しだいに周期は短くなって。
震える空気が、その音だけが。
白いノイズのように。
いつまでもいつまでも。