『新撰組のヒミツ』短編集
気に入られた反物の着物を頼まれた井岡様。


値が張る反物だったため、少し驚いてしまったが、井岡様は「着物と刀以外にロクな金の使い道が無い」と仰った。


男の方は遊廓にでも行きそうなのに。
腑に落ちないというよりも、何故か安堵してしまう自分を内心で叱責する。


採寸を始めようとすると、井岡様は「傷があるから」と、着流しの上からの採寸を要求され、服の上から採寸をした。


紙に測った大きさを書いていくが、初は途中で妙なことに気付くことになる。


――これは……どういうこと?


いくら着物の上からだからとはいえ、男の方の体格にしては余りにも細い。


初見から細身だと感じてはいたが……胴(ウエスト)は細く、腰や胸は他とは明らかに違っており、肩幅は狭く丸い。


「……井岡様、傷は痛まないのですか?」


「いや、昔のことです。ですが傷跡とはいえ、未熟なものを見られるのは恥ですので、さらしを巻いていますが」


胸元をはだけて白いさらしを見せる井岡様。本当に、その下に傷があるのだろうか、とぼんやりと霞む頭で考えた。


――やっぱり。さらしを巻いていても、胸が完全に無くなるわけじゃない。








彼は、女性だ。









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