『新撰組のヒミツ』短編集
いくら焦がれた井岡様でも、彼女は女だ。その事実を確信しても尚、この胸にある想いは一向に消えることが無い。


“だからこのように綺麗な方なのか”と寧ろ納得してしまうくらいで、自分が井岡様という人間を好きになっていたことに気付く。


それでも何故か悲しくて。


いつの間にか採寸道具は、手のひらから滑り落ち、胸や喉の底からこみ上げる涙を抑えきれなかった。



「どうしたのですか」



背中に温かい手が乗る。


「……井岡、様っ」


その暖かさが辛くて、ただ首を振った。



今でも井岡様を慕う気持ちは変わらない。そう簡単に変わるはずがなかった。この気持ちに性別なんて無いと思ったから。


だけど、また会ってしまった。


“もしかして”と、本当は不釣り合いで手も届かないはずのない人と結ばれるという夢物語に囚われてしまったから。


だから余計な期待は大きく膨む。


井岡様が落ちてしまった採寸道具を拾おうとしゃがむと、その懐から何かが畳に落ちる音が耳に届いた。


ふと床を見ると、そこには緑色の鮮やかな可愛らしい簪が落ちている。初は息をすることも忘れて、絶え絶えに尋ねた。




「それは……好いたお方に……?」




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