『新撰組のヒミツ』短編集
貰ったのか。あるいは、贈るのか。


初は語尾を曖昧にぼかし、しゃがんでいる井岡様の表情をじっと見つめた。だが、井岡様は虚をつかれたような顔をする。


でも、井岡様が大切そうに持っているその簪は、想いを寄せられた男の方から贈られたものに違いない。


きっと、井岡様の性別も知っていて、美しい姿形や優しい御心、それ以外のことも沢山知っている方だと直感した。


「え……。別に、そんなものじゃ……」


頬に赤みが差した。


涼やかな表情しか見たことのない井岡様が、ここにいない方を思い浮かべているだけで、こんなにも表情が変わる。


「……そうなの、ですか」

「そうです、違います」


立ち上がりながら否定した井岡様は、無意識なのか知れないが、誰よりも美しく頬が色づいていている。


ああ、女の顔だ。


それでもやはり恋情は抑えきれず、赤らんだ顔を隠すように踵を返して帰ろうとする井岡様の背中に抱きついた。



「……どうしたのですか」



回した胴はやはり女性のもので。
先程と同一の言葉、平素とは何ら変わらない冷静な声音に涙が零れた。



「あの日……井岡様が助けてくださった日から、今日までずっと、貴方様を想わなかった日はありません」



叶わないと分かっているのに。


「お慕いしております…………」


言わずには居られなかった。



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