『新撰組のヒミツ』短編集
初めて本気で好いたお方が、命の恩人で美しい侍の格好をした女性だった。そして彼女には、簪を贈られるような慕われている男性がいる。



叶わないのは知っているの。

だから、「嫌いだ」って仰って、

未練さえ残さず、お振りになって。

“男”が“女”を振るように。



喉がひりひりする感覚に、身体が悲しみでうち震える。今だけは、と井岡様の細い身体の温もりを覚えておきたいと思った。


――夢の中で抱かれた貴方様の御身体が、こんなにも細いとは考えたことが無かった。


「……好きになってくれてありがとう。でも修行の身だから、貴女を愛してあげることは一生出来ません」


女性なのに、低くて艶のある声音に思わず身を震わせた。不毛だと分かっているのに、初は縋るように尋ねる。


「もし……もし修行の身じゃなかったら、わたしを愛して下さいましたか」


「……そうかもしれない」



嘘よ、嘘吐き。何て優しくて酷い人。

わたしを愛しては下さらないくせに。

ならば今、貴方様の御心には誰がいらっしゃるのですか?



井岡様の手にある簪が、

――小さな音を立てた。



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