『新撰組のヒミツ』短編集
壬生浪士組筆頭局長、芹沢鴨が長州の輩に暗殺され、二日が経った。葬儀も終わり、監察たちは秘密裏に間者捜索へと身を乗り出した。


その男――芹沢鴨を暗殺したのは、実は壬生浪士組でも一際刀の才に恵まれている沖田総司であった。


命令だから、しょうがなかった。


そう言ってしまえば全てが片付く。


大義のために、足に纏わりついてくる邪魔で不必要なものは、全てが駄目になる前に、切り捨ててしまわなければならない。


だが沖田は、組織の道理と個人的な感情は、全くの別物であるということを、今になってまざまざと感じていた。


(芹沢さん――……)


彼は、この世から消えた。
物を語らぬ身となって。


副長の土方さんが、局中法度の草案が置かれた文台と向き合っていた時から――いや、武士として生きると決めた以上、こうなるのは半ば予想出来たことだった。


後悔はしていない。


たとえ、もう一度昔に帰ったとしても、振り上げた刀を迷いなく振り下ろす、己の修羅の姿がそこにはあるに違いない。





「沖田」


だけど、芹沢さんの声が。


「何故、儂を」


恨みが籠められた声が頭に響く。


「斬ったのだ――?」


はっとして後ろを振り返ってみたが、そこには誰の姿も無かった。ただいつも何ら変わらない、自分の部屋の襖が在るのみである。


だが、そこにある滲(し)みの模様すら、沖田を責め立てる芹沢さんの顔にも見え、沖田は呪詛から逃れるように耳を塞いで、己の膝に顔を埋めた。


「沖田、儂は赦さぬぞ」
「儂を殺したお前を」


「沖田!」「沖田……!」


誰か。僕を助けてくれよ。





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