『新撰組のヒミツ』短編集
沖田の表情を苦痛に耐えるそれと見たのか、平助が「総司の具合を診てやってくれ!」と、慌てたような声を上げた。


対する山崎さんは、一瞬だけキョトンとしたように目を瞬かせると、さっきまでの様子とは打って変わり、沖田の目に真剣な表情を向けてくる。


「沖田さんが……?
しかし、俺は医者の子であっても医者ではありませんのでよく分かりませんが」


そう前置きした山崎さんは、すっと立ち上がって沖田の前に座った。目の下を下げられ、口を開けさせられ、額に手を当てられ……。


難しい表情になった山崎さんが、されるがままに彼の診察を受けていた沖田の耳に、誰にも聞こえない小さい囁きを落とす。


「何か悩んでいますか?
……二日前のことで」


「……!」


ズバリと言い当てられ、思わず距離を取る。幸い平助は眠っている光さんの顔をつついたり、ひっぱったり、ちょっかいを出していて一連の様子は悟られていなかった。


「隠すのえらい上手いな、沖田はん」


口調を砕けたものに変え、くすりと笑う山崎さんは小さくため息を吐く。


「斬ったあんたも辛いとは思うけど、辛いんは皆一緒やと思う」と呟くと、眠る光さんに視線を向けた。


――殺しも無いに等しくて。
強い想いも無い世界と、血色の世界。
どっちがええんやろな。


彼のその言葉には、深い苦悩があった。


沖田には意味が分からなくても、彼が沖田の考える答えを欲していることに気付いたため、ただ口を開いた。


「それは……平和な世界が一番ですよ」


「せやな」
苦笑した彼は沖田に一瞥をくれた。
「せやけど、俺は返したらへん」


――意味が分からない。何一つ言っていることが分からないのに、彼の本心を垣間見たことだけは確かだと悟った。


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