『新撰組のヒミツ』短編集
疲れているのか、気配には過敏なはずの光さんは、平助からの悪戯にも反応を示さない。よく目を凝らしてみれば、成る程、確かに目の下には隈があった。
きっと監察の仕事に違いない。そう思って見てみれば、山崎さんの目の下にも隈がある。
だが、光さんは頬を抓られた瞬間、眉間に皺を寄せ、苦痛の声を上げながら、目にも留まらぬ速さで平助に向かって足蹴りを繰り出す。
(平助の自業自得ですね)
「ちょっ、うわ……!」
「藤堂さん、気をつけて付けて下さい。井岡は足癖が悪いので蹴られませんように」
冷静に口を挟む山崎さんは“しょうがない”というような笑みを浮かべると、眠る光さんに歩み寄り、肩を揺すって起こす。
直ぐに目を開いた光さんは、近くに置いてあった白い短刀に素早く手を掛けると、部屋の中にいる面々をぐるりと見回した。
「あ、烝。平助、総司も」
普通に起き上がり、短刀を直した光さんは、距離を取っている平助を見、「どうした、平助?」と小さな笑みを浮かべて頭を傾げた。
「……なんでもない。
それより総司の具合が悪そうで……」
柔らかい笑みを浮かべていた光さんから、一瞬にしてそれが消え去る。怖い表情になった光さんは、沖田の方に近付くと、肩をガッと掴んだ。
「具合が、悪いのか」
真剣そのものの瞳は、沖田が抱える全てを見透かすように真っ直ぐで、沖田はその目から視線を逸らすことが出来ない。
「熱は? 倦怠感は?……咳は?」
「い、いえ。ありません」
「本当に? 嘘じゃなくて?」
「ええ、本当に」
そこまで言うのだが、光さんからは未だに疑いの目を向けられる。「本当ですって」と半ば言い訳のように言えば、光さんは何とか納得してくれたようだ。
きっと監察の仕事に違いない。そう思って見てみれば、山崎さんの目の下にも隈がある。
だが、光さんは頬を抓られた瞬間、眉間に皺を寄せ、苦痛の声を上げながら、目にも留まらぬ速さで平助に向かって足蹴りを繰り出す。
(平助の自業自得ですね)
「ちょっ、うわ……!」
「藤堂さん、気をつけて付けて下さい。井岡は足癖が悪いので蹴られませんように」
冷静に口を挟む山崎さんは“しょうがない”というような笑みを浮かべると、眠る光さんに歩み寄り、肩を揺すって起こす。
直ぐに目を開いた光さんは、近くに置いてあった白い短刀に素早く手を掛けると、部屋の中にいる面々をぐるりと見回した。
「あ、烝。平助、総司も」
普通に起き上がり、短刀を直した光さんは、距離を取っている平助を見、「どうした、平助?」と小さな笑みを浮かべて頭を傾げた。
「……なんでもない。
それより総司の具合が悪そうで……」
柔らかい笑みを浮かべていた光さんから、一瞬にしてそれが消え去る。怖い表情になった光さんは、沖田の方に近付くと、肩をガッと掴んだ。
「具合が、悪いのか」
真剣そのものの瞳は、沖田が抱える全てを見透かすように真っ直ぐで、沖田はその目から視線を逸らすことが出来ない。
「熱は? 倦怠感は?……咳は?」
「い、いえ。ありません」
「本当に? 嘘じゃなくて?」
「ええ、本当に」
そこまで言うのだが、光さんからは未だに疑いの目を向けられる。「本当ですって」と半ば言い訳のように言えば、光さんは何とか納得してくれたようだ。