『新撰組のヒミツ』短編集
実は平助は元気の無い沖田を元気づけようと、「総司が悩んでるから元気にさせようぜ」と四人に耳打ちしていたのだ。


先ず最初に名乗りをあげたのは左之。


「よし、総司。俺の奢りで島原に連れて行ってやる! うめえ酒といい女に会ったら、お前も元気が出るに違いねえ!」


「……さいなら」


それまで左之の近くにいた街の女は、彼に思いっきり軽蔑をしたような視線を向けると、そそくさと居なくなってしまった。



その場にいる全員が押し黙る。



――遊郭通いの男は町娘にモテない。
もしこれから先、沖田が妻を持つことがあったら今日のこれを教訓にしようと感じた。


「成る程、勉強になりました」


「あ゛? 馬鹿にしてんのか、総司!」


左之がふられた勢いにより、理不尽に怒り出したところで、間に平助が入った。そうすれば左之は年甲斐もなく拗ねてしまい、そっぽを向く。


「あーもう良いから! ほら、入るよ!」


背中を押す平助に根負けし、一くんと左之は渋々甘味処の暖簾をくぐる。光さんと山崎さんは、楽しそうな笑みを浮かべて後に続いた。









店内に入ると、女将さんと思われる女性が一番端の席に案内してくれた。店内には何とも言い難い、甘く香ばしい香りが立ちこめており、沖田は思わず喉を鳴らす。


甘いもの好きには堪らない。気を抜いたら口の端から涎が零れそうで、こっそりと手の甲で口元を拭った。


まずは何にしようか、と壁に掛けられていた札を見ていたところ、沖田の隣に座る原田がまたもや声を上げる。


「おっ、酒があるじゃねえか! 甘味処も意外と洒落たモン置いてんだな。甘酒なのは仕方ねえけど無いよりはましだ。


酒だ、甘酒をくれ!」


< 26 / 46 >

この作品をシェア

pagetop