『新撰組のヒミツ』短編集
遠ざかる光を呆気にとられて見ていた山崎は、敷居から外れ、無残にも倒れた襖を見つめると、ぷるぷると肩を震わせた。


(……そないに嫌なんやったら……何が何でも絶対に女装させたるからな……!)


怒りを通り越した山崎は、珍しくもニヤリと意地の悪そうな笑みを浮かべる。


しかし、その直後、倒れている襖に目を落とした山崎は、“仕方がない”と言わんばかりにため息を吐き、襖をいそいそと戻すのだった。





一方、逃走中の光はというと、取りあえず山崎の目(監察頭の支配下)が届かないところに逃げ込むことにした。


そう考えて一番先に頭を過ぎったのは、やはりと言うべきか、壬生浪士組副長・山南敬介の優しげな表情である。


キョロキョロと、山崎がいないかを注意深く辺りを見回し、山南の部屋へそっと足を運んでいると、突如背後から声が降ってきた。


「何をやっているんだ、光」

「うわあっ」


飛び跳ねる心臓を押さえ、後ろを振り向いてみると、そこには怪訝そうな表情をした斎藤が光を見下ろしていた。


「一さん……!」


(この際、一さんでもいいか)と、何とも失礼極まりないことを内心で呟くと、眉を寄せている彼に深く頭を下げた。


「お願いします、私を匿って下さい!」

「……何をだ。ちゃんと説明しろ」


そう言われ、そもそもこうなった経緯を洗いざらい話し始める。任務など無いのに、無理矢理女装させようとする山崎の理不尽さを心から訴えた。


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