『新撰組のヒミツ』短編集
七月上旬。
いくら風情ある京の夏と言えど、肌に感じる日差しの強さと盆地独特の蒸し暑さは、その風情すら呆気なく吹き飛ばしてしまうほどである。
今は名を改めた新撰組の前身、壬生浪士組の屯所。
そこには、暑さに耐えきれず、ひたすら暑い暑いと口走り、額からは玉のような汗を滲ませている男たちがたくさんいた。
「くそ、何でこんなに暑いんだよ……! て言うか、あんた、山南さん! 書物なんざ読んで暑くねえのかよ!」
「もちろん、わたしだって暑いに決まっています。それにしても今年は参りました。一段と暑さが厳しいようですね」
怒鳴るように愚痴る原田をいなし、山南は水を口にしていた。このような暑い気候の中で、いつもの熱い茶は適わないからだ。
確かに今年は酷暑だ。
水不足が懸念されているが、この日ノ本は夏だけが季節だけでない。すぐに恵みの雨が降り注ぎ、夏が恋しくなる時期がやってくることだろう。
「山南さん、おはようございます」
「おはよう、光さん。仕事ですか?」
「いえ、今日は稽古以外何もありません」
にっこりと微笑んだ光に山南も人の良い笑みを返した。暑いと愚痴る原田とは対照的に、二人は涼しげに見える。
余り焼けていない肌の色がそう見せるのであろうか。
原田は色黒く焼けているが、屯所内の事務処理に追われる山南や、巡察には余り出ない光はとても白い。