『新撰組のヒミツ』短編集
「……。涼しくなる集まり、かな」
「嘘吐くなや。こんなん男しかおらん集まりで、どないして涼しくなるちゅうねん。暑苦しゅうて暑苦しゅうて溜まらんわ」
冗談やろ? とばかりに笑い飛ばす山崎だったが、光は少しだけむっとしたような口調で「嘘じゃない。本当だよ」と言い返す。
「ほんまか? せやったら何すんねん」
疑問に首をもたげる山崎に、光は思わず口を綻ばせる。
くすくすと楽しげに笑い声を漏らし、山崎の耳許に口元を寄せた。動揺する山崎の顔には全く気付かず、心の底から楽しそうな口調で言う。
「夏らしいこと」
「……って何やねん……」
腑に落ちない表情をする山崎とは対照的に、光はただ笑うのみ。するとちょうどその時、人だかりの中心にいた山南が「皆さん!」と、大きめの声を上げた。
すると、その場にいた全ての隊士が会話を止めて山南に注目する。人の良い山南を無視する者など、たとえ芹沢派の者だとしても誰一人としていなかった。
「事前に知っていた方もいらっしゃるかと思いますが……。
今から三人一組になり、向こうにある雑木林まで行って戻ってきます。林の中に札が置いてありますので、取って帰って来て下さい」
「それってまさか、肝試し……ですか?」
隊士たちのうちの一人が、恐る恐るという感じで山南の話に口を挟む。怖がりなのだろうか、夜でも分かるほどに顔色が悪かった。
それに気付かない山南ではないだろうに、例の優しい笑顔で「御名答。その通り肝試しですよ」と笑って言った。
何か文句でも?
そんな有無を言わせぬ微笑で、その隊士を瞬時に黙らせる。仏のごとく優しい彼には、何も言い返すことが出来ない。