『新撰組のヒミツ』短編集
「これは精神力を鍛える訓練にもなる。
俺たち壬生浪士組は京に仇なす者たちに恐れられているが、その俺たちが物の怪ごときに恐れをなしちまったら世話ねえ」
悟ったような顔で屁理屈を弄している土方だが、所詮は土方も単に面白そうだからと思って参加したのだろう。
だが、山南と並んで副長である土方の言葉には不思議な重みがあり、ざわめいていた隊士たちは表情を引き締めた。
(……〝ごとき〟って……言い切ったな)
「では今から三人一組になって下さい」
山南のかけ声と共に隊士たちはざわざわと騒ぎながら組を作る。殆どが同じ隊で仲のよい者同士が組を作っていた。
それは監察に置いても同様である。隣にいた山崎は、直ぐに光の腕を掴んで、迷うことなく誰かの元へと真っ直ぐに歩き出した。
「おい、吉村。お前は俺たちとだ」
「あ、山崎さん」
相手を探そうと右往左往していた吉村の元に行った山崎は、驚いたような顔をしている彼を見て軽く笑った。
この組決めの様子を見た光は、やや強引な作り方である気もしたのだが、この面子に不安要素は感じられなかったため、何の文句を言わない。
「俺、情けないですが少し怖いんです」
「何を言ってるんです、吉村さん。私たちは壬生浪士組ですよ。意気込んで行けば、幽霊たちも裸足で逃げ出すでしょう」
「……そう、ですね。頑張ります」
光の言葉に苦笑いで頷く吉村を見て、山崎は(人選を間違えたか)というような微妙な表情をしていた。たとえ幽霊を恐れている者であろうともシビアな山崎であった。
「それでは順番です。計十組ありますが最初に出発したい方々はいらっしゃいますか?」
「おし、一番は俺たちが行くぜ!」