『新撰組のヒミツ』短編集



――その時だ。
三人は同時に身を竦ませた。



「ぎゃあぁああぁああああああ……!」
「うわっ、うわぁあああ!!」



何かに怯える叫び声だ。前に行っていた平隊士たちが尋常では無い叫び声を上げているのだった。


光は思わず呆然としてしまったのだが、山崎は既に行動を起こしていた。


前の様子を見に行く――のではなく、

「おい、吉村! お前っ……逃げるな!」

と、踵を返して逃亡を図った吉村の着物をがしりと掴み、元の場所に引きずり戻したのである。




「……あんな声聞いて、普通で居られる訳がないでしょう!? 分かってますか!? 俺は、こういった行為は嫌いなんです!! 幽霊なら幽霊らしくしてりゃいいんですよ!」


「俺が知るか!」


「何故知らないのですか!」


何故か遂に怒り出した吉村に対し、山崎は理解不能であるというような顔になる。


恐怖の為に方向性を見失ってしまった吉村は、何かに不安をぶつけたいようにも見えた。


今度こそ身を翻して元来た方向に走り去って行く吉村。対して「おい、待て!」と、彼を追い掛ける山崎。


「え……烝っ!?」


(そんな……ひとり!?)
そして光は、暗い林へと続く道にたった一人取り残されてしまったのだった。







幽霊なんか信じていない。


たとえ、そこに何らかのものが存在しようとも、目に見えないなら無いものと同じだ。仏教を信ずる者は、死後は極楽浄土に生まれ変わると言うではないか。


だから、幽霊などいては堪らない。
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