『新撰組のヒミツ』短編集
――そうは思うのだが。
林の奥から聞こえる、ザワザワと葉が揺れているような音に思わず身を震わせる。


(ただの風……怖い訳じゃない……)


光は昔から肝試し等をするときには、必ず脅かし役だ。他人の驚き怖がる様子を見るのが楽しいのだ(悪趣味ではあるが)。


――ただ、その愉悦に浸ること以外の理由に、脅かされるのが嫌だということもある。


「吉村さんのビビリ、烝のバカ……」


自らを鼓舞しようと何気なく呟く。だが、その声は虚しく足元に落ち、より一層、独りだという孤独感が強調されただけだった。


(仕方無い……。私だけで行くか)


ため息をついて暗い道の先を見つめ、ぐっと拳を力いっぱいに握りしめた。怖さなど微々たるもの。弱い己の心が映し出す幻影に過ぎないのだから――。


――この時はまだ、冷静だった。







地面に落ちた枝葉を踏み締める。既に光は雑木林に入っていた。足元が見えないくらいに暗く、夏場だということを忘れるほどに肌寒い。


確かに、夏場の暑さを紛らわせることは出来た。だが、それは気持ちのよい清々しさではない。薄ら寒さというものである。


(本当、言わなきゃ良かった……『夏と言ったら肝試しでしょう』なんて……!)


一人でするなど聞いていない。


――これはルール違反。意趣に反している。よし、文句をつけよう。それか稽古指導でストレスを発散してやるか。


ああ、吉村さんが相手でいい。全てが片付いたら思う存分暴れ倒してやる――!


不安を怒りに変えて、前に進む。
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