『新撰組のヒミツ』短編集
自分は女装など向いていないだの、あの窮屈な帯が何とも気にくわない……。女装に対する嫌な部分を兎に角、訴えに訴えた。


「お前、本当は男だろう」

「…………」


真顔でぼそりと呟かれた光は、ぐっと唇を噛みしめるが、「……いいんです、男ですから。男に女装しろなんざ不愉快です」と、それすら女装を嫌がるダシにしてみせる。


「そうか?……俺にとっては不愉快どころか愉快な話だな、山崎」


ハッと斎藤の顔を見ると、その視線は光の後ろ側に向けられている。その瞬間、光の顔色が再び白くなると、弾かれたようにその場から逃げ出した。


(くそ、一さんの裏切り者が!
でもまあいい……一応“あっち”では陸上部の短距離してたんだから……山南さんの部屋に着くまで、そう簡単に捕ま――)


「………………」

「鍛え直さなあかんなぁ、光」


いつの間にかがっしりと掴まれた手。ぶんぶんと手を振って、どうにか振り払おうとするが、流石に本物の男には適わない。


背後を振り返って手の主――もとい、山崎を睨み上げるが、涼しい顔をされるだけでこれといった効果は得られなかった。


「さ……扱いたるから覚悟せえよ」

「は、一さん」


いやいやと、子供のように首を振り、様子を眺めている斎藤に手を伸ばす。だが、斎藤の浮かべている笑みを見て、嫌な予感がした。


「興味が湧いた。山崎、邪魔はしない」

「ええ、どうぞ」


――ぶった斬ってやろうか。

一瞬だけそんな物騒な考えが浮かぶが、最早これまでか、と全身を脱力させると、元の部屋へと連れ戻された。

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