『新撰組のヒミツ』短編集
「きゃあぁあっ――んんん……っ!?」
反射的に高い叫び声を上げてしまった光。すると、その手の主が「――アホか! 女の声出すな!!」と慌てたように口を塞いできた。
その訛りのある口調が聞こえてきたとき、光は安心感からか、思わず膝から力が抜けて、地面に座り込んでしまった。
「あ……烝っ!」
「何ビビっとんねん」
「……心臓が……心臓、動いてるよね?」
「止まっとったら死んどるやろ……」と、呆れたように言う山崎。だが、今の光の耳には何も届くことは無かった。
光の蒼白な顔に冷や汗が浮かんでいる。それをしゃがんで覗き込む山崎にも気付かないようだった。寒そうに腕をさすっている。
「光? おい、光ー?」
「……あの時、やっぱり……」
頭を抱えてブツブツと何かを呟く光。恐ろしさが多少は薄れてきたとは言え、心臓が忘れたころに騒ぎ出していた。
僅かに震える細い身体。好いた女の弱り目を捨て置ける男は居ないだろう。山崎は、光を躊躇いがちに引き寄せる。
「もう、大丈夫やから……」
「何だよそれ! 元は烝が行くから……! 吉村さんが帰りたいって言うなら、いくらでも放っておけばいいだろ! 何で!」
そう怒ったように言う光は、山崎の肩を強めに叩いた。だが、山崎は何も言わず、更にはびくともしない。光は彼を詰りながらも、着物の端を握り締める。
「怖かったんだよ」
「……堪忍」