『新撰組のヒミツ』短編集


吐き出した息が震える。
苦しくなって、唇を噛みしめた。
痛く締め付けられる胸を押さえ、目を瞑る。


閉じた目を叩いた肩に押し付けた。
掴んだ着物を離せそうになかった。
強く強く「大丈夫」と腕を回された。


顔が、全身が熱くなる。
どきりと高鳴る胸の理由(ワケ)など知らない。
まだ、知ってはいけない気がした。


――だから、これはきっと恐怖のせい。


「……脅かさないで」


言い訳のように、小さく呟いた。







「さっき……何かの音がしたんだ」


「風か?」


「分からない。風……かも」


林の中を歩いている途中、光がポツリと言葉を漏らした。霧が出て来たのか、先程よりも肌寒くなり、視界が徐々に悪くなってきている。


山南が言っていた、札が置かれてあるらしき場所を目指しながら、二人は他愛もない会話ばかりを繰り返していた。


「いつも言うけど、後ろから気配消して近付かないで。危ないし、怖いから……。せめて何か、一声掛けるとかして?」


「そうする。せやけど俺、監察やし……なるべく声出さへんようにしてんねん。癖や癖。ほんまやったらお前もそうするべきやろ」


「だから、いつも肩叩くの?」


「まあ。――って、ええやん別に」


「ふうん。また叫ばれたい?」


膨れっ面でムッとして言う光。そこには、いつもの澄ましたような表情は無い。子供に退行したようにも見えるが、山崎が気を許されている証でもある。


下らない会話をしながらも、視界が悪い林を進んでいく。調子を取り戻した光は、特に怖がっている様子もなく、ただ真っ直ぐに林を突き進む。


「あれか?」

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