『新撰組のヒミツ』短編集
山崎が顎で示したのは、苔がむしている古びた井戸だった。周りには、朽ち果てた桶や紐、木材が無残にも散乱している。
恐らく今は使われていないと思われた。
「あ! ほらあれ、札が置いてある」
黒ずんだ木の蓋はきっちりと閉まっており、おどろおどろしいものは感じない。ただ、その蓋の上に無数の札が置かれていた。
月明かりに照らされる札。それには、微かに四から十までの数字が描かれているのが見える。恐らく、これが山南が言っていた札だろう。
「四の札を持って帰ればいいんだね」
「おぉ。前の組までは、皆来てるな」
「そうみたい。七つしかないよ」
山崎と横並びになった光は、蓋の上に置かれている四の札を取った。筆の滲んだ黒色に、着色を施しているのか赤色が夜でも鮮やかに見える。
「うわ、血にしか見えないよ……」
「手ぇ混んでるなぁ、ほんまに」
他の残った札も血のような塗装がされているのかと疑問に思い、視線を落とす。すると、両者はふとあることに気付いた。
「……開いてる……?」
「何でや、蓋が……」
さっきまではしっかりと閉まっていたはずだったのだが、今は全体の三分の一ほどが開いていた。明らかにどこか変だ。無論、両者とも開けていない。
「………………」
ごくりと唾を飲み込んで井戸を凝視する光。だが、山崎は表情を変えず、さらには中がどうなっているのか覗き込もうと、ぐっと身を乗り出した。
ヒタ、ヒタと何かが這い上がってくる音。
時折、ぽちゃんと水が跳ねる音がする。
「……烝……早く、行こう……!」
何かが、すぐそこに、いる。
ガッと井戸の縁を掴む、青白い手。
「――――――――っ!!」
見間違えじゃない。
光は悲鳴さえ出なかった。
山崎も驚いたように身を震わせる。
慌てて踵を返す二人。
すぐ真後ろに、死に装束を纏った髪の長い女が立っていた。
「……っ! いやあぁああっ!」
前髪が長く、口元だけが露わだ。
死化粧を施された、唇の口角が上がる。
「……光!!」
恐らく今は使われていないと思われた。
「あ! ほらあれ、札が置いてある」
黒ずんだ木の蓋はきっちりと閉まっており、おどろおどろしいものは感じない。ただ、その蓋の上に無数の札が置かれていた。
月明かりに照らされる札。それには、微かに四から十までの数字が描かれているのが見える。恐らく、これが山南が言っていた札だろう。
「四の札を持って帰ればいいんだね」
「おぉ。前の組までは、皆来てるな」
「そうみたい。七つしかないよ」
山崎と横並びになった光は、蓋の上に置かれている四の札を取った。筆の滲んだ黒色に、着色を施しているのか赤色が夜でも鮮やかに見える。
「うわ、血にしか見えないよ……」
「手ぇ混んでるなぁ、ほんまに」
他の残った札も血のような塗装がされているのかと疑問に思い、視線を落とす。すると、両者はふとあることに気付いた。
「……開いてる……?」
「何でや、蓋が……」
さっきまではしっかりと閉まっていたはずだったのだが、今は全体の三分の一ほどが開いていた。明らかにどこか変だ。無論、両者とも開けていない。
「………………」
ごくりと唾を飲み込んで井戸を凝視する光。だが、山崎は表情を変えず、さらには中がどうなっているのか覗き込もうと、ぐっと身を乗り出した。
ヒタ、ヒタと何かが這い上がってくる音。
時折、ぽちゃんと水が跳ねる音がする。
「……烝……早く、行こう……!」
何かが、すぐそこに、いる。
ガッと井戸の縁を掴む、青白い手。
「――――――――っ!!」
見間違えじゃない。
光は悲鳴さえ出なかった。
山崎も驚いたように身を震わせる。
慌てて踵を返す二人。
すぐ真後ろに、死に装束を纏った髪の長い女が立っていた。
「……っ! いやあぁああっ!」
前髪が長く、口元だけが露わだ。
死化粧を施された、唇の口角が上がる。
「……光!!」