『新撰組のヒミツ』短編集
部屋に着くと、まず蹴り倒した襖がちゃんと直っていることに気付いた。几帳面な山崎は、倒れたまま追ってくることは出来なかったのだろう。
そんなことをぼんやりと考えていると、山崎は掴んでいた腕を離すと、光だけを部屋の中に入れ、すぐに襖を閉めた。
「そこの着物に着替え」
その言葉に、背後を振り返ってみると、確かに着物が畳まれていた。生地は至って普通、柄は無いただの赤い着物だ。
しかしながら、少々垢抜けた色である赤の着物をしかと見つめると、光は眉を寄せて不快さを露わにする。
もっと黒とか、茶とか……。
女らしさの欠片もない色を思い浮かべると、仕事用の箪笥をごそごそと探る。その音に気付いたのか、襖の外にいる山崎が「光?」と、声を投げ掛けてきた。
「――着替え中です!」
「阿呆、着替えるのにそないな音がするわけ無いやろ! 何してんねん!」
「開けたら変態!」
幼稚な言い争いを続けていると、光は奥に仕舞われていた目当ての服を見つけると、すぐさま引っ張り出した。
性別が露見しないよう、長年の生活で培った着物の早着替えを、今この屯所で遺憾なく発揮する光。
赤い着物の横に置かれていた装飾品を、やけに手馴れた手つきで身に付ける。そして、一つに束ねた髪の毛を解いたところで、部屋の襖が開いた。
「変態」
「……逃げたんやないかて思たわ」
そんなことをぼんやりと考えていると、山崎は掴んでいた腕を離すと、光だけを部屋の中に入れ、すぐに襖を閉めた。
「そこの着物に着替え」
その言葉に、背後を振り返ってみると、確かに着物が畳まれていた。生地は至って普通、柄は無いただの赤い着物だ。
しかしながら、少々垢抜けた色である赤の着物をしかと見つめると、光は眉を寄せて不快さを露わにする。
もっと黒とか、茶とか……。
女らしさの欠片もない色を思い浮かべると、仕事用の箪笥をごそごそと探る。その音に気付いたのか、襖の外にいる山崎が「光?」と、声を投げ掛けてきた。
「――着替え中です!」
「阿呆、着替えるのにそないな音がするわけ無いやろ! 何してんねん!」
「開けたら変態!」
幼稚な言い争いを続けていると、光は奥に仕舞われていた目当ての服を見つけると、すぐさま引っ張り出した。
性別が露見しないよう、長年の生活で培った着物の早着替えを、今この屯所で遺憾なく発揮する光。
赤い着物の横に置かれていた装飾品を、やけに手馴れた手つきで身に付ける。そして、一つに束ねた髪の毛を解いたところで、部屋の襖が開いた。
「変態」
「……逃げたんやないかて思たわ」