忍びの花魅

一ヶ月後。


今日は京華の店出しだ。

普通の舞妓よりも仕込み期間が極端に短かった京華。

しかし この一ヶ月間は、一時も無駄にしなかった。

一週間目で振袖の着付け方、座敷での専門的な用語、季節の簪を全て暗記し

二週間目には花道言葉を使いこなし、雑用の要領を全て掴み

三週間目には舞妓としての立ち居振る舞いを身につけて、 姉さん達と歌舞連場(言わば舞妓の学校)にも通いはじめ

最後の週には、まだ下手くそとはいえ、いくつかの舞踊(祇園独特の井上流舞踊)を舞えるようにもなった。





店出しは舞妓としての初仕事。



白粉を塗って化粧をすると

楓たち仕込みが、朝早くから着付け師のお兄さんを呼んだ。

振袖を身にまとい、重たいだらりの帯を締めてもらう。

床屋に行き、初めて結ってもらった割れしのぶには祝いの簪をさし、真新しいおこぼの草履を足に履く。

まるで可憐な蝶のようだ。




厄払いの火打ち石に願を込めて

お母さんに送り出してもらったら


お世話になる先生方や道具のお店、贔屓のお客様の元へと挨拶周りに出向いた。



祇園の舞妓、京華。



一歩足を前に出す毎に増してゆく、「舞妓になるんだ」という実感。


嬉しいような恥ずかしいような…


そして何より

太夫の時には感じられなかった、支えてくれる周囲の人達に『感謝する』という気持ちが 京華の心を満たしていった…。




「おおきに。これからもどうぞ、よろしゅうおたの申します。」






人は皆支え合って生きている。

だからこそ頑張れる。

だからこそ感謝する。



こんな当たり前のことに

どうして今まで気づかなかったんだろう…。


彼女はもはや、かつての桜太夫ではなかった。


今は、新しい幸せを見つけたんだ…



『京華』としての幸せをね…

















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