忍びの花魅


月は〜お〜ぼろに
ひが〜し〜や〜ま〜♪
か〜す〜む〜よ〜ごと〜の、かが〜り火に〜♪



今夜のお客様は
お座敷の定番曲『祇園小唄』がお好きな方だ。


今も芸姑の小春姐さんの弾き語りに合わせ、泣き虫京子とぐずの京華が舞っている。


舞妓になってある程度経験も積んできた二人。


置屋でのお怠け娘はどこへやら、本業の舞となれば やはり気合いも入る。
舞妓は舞を披露しているときが一番美しい。

当然のようだが
二人にもしっかりと身についているのがわかる。


祇園〜 恋し〜や〜
だらり〜のお〜び〜よ〜♪♪





テテンッ♪

曲が終わると
お客様は、満足気に拍手を下さる。

パチパチパチ…。





お客「今日もえぇ舞やった。 いつも同じのしか頼まへんのんは悪い気もするんやけどな…。やっぱりわてはこの舞が好きや。ほんま、おおきに。」


小春「あはは。何を言わはるんかと思てたら…。そないなことを気にしてはりましたんどすか? たいしたことやおへんのに。なぁ、二人とも?」

小春が見やると

京華たちも答える。


京華「さいどっせ?お兄さん。これがうち等の仕事やおへんか。気にせんで下さい。」


京子「そうどす。 そんなことよりも、うちはもっとその… 叱られるんやないかっちゅう方が心配どしたのに…。」


お客「叱る?なんでわてがあんたらを怒らないかんのや?」

しかし
先程部屋に上がる時、小春が遅れの理由を全て話したため、京子が慌てるあまりに階段から落ちたという話はすでに伝わっているのだ。


それなのに、お客様は意地悪で聞いている。



…これは恥ずかしい。


顔を真っ赤にする京子であったが

お客様も慣れたもので

すぐに話題を変えて下さった。


というよりも
京子の横であからさまに嫌な顔を向けてくる京華の迫力に負けたというべきか。


すかさず小春の眼が(お客様に失礼なことをするな)と京華をたしなたが、京華に効き目があったかどうか、定かではない。


お客「いやいや…。やっぱりえぇわ。良い質問やなかったな。悪い悪い。 あ〜っと、そぉや!!今日は何か座敷遊びでもしたい気分やけどなぁ。どうやろ?」

素晴らしい話の反らし方だ。



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