未完成

『君、どうしたんだ大丈夫』

「あ………すみませ…大丈夫」

『顔が真っ青じゃないか!
ちょっとそこの長椅子に横になった方がいい』

「いえ…ほんと平気…」

『無理せんといて
今何か飲むモノを買ってくるから』

吉田匠(25)

今思うと偽名かもしれない。
歳もサバをよんでるかもしれない。
でもあたしは一目惚れでした。

『映画には良く一人でくるの』

「はいッ
一人で見るのが大好きなんです(≧∇≦)」

『同感だな。
顔色もよくなったみたいだし僕はそろそろ…』

「あの
お礼…お礼したいんですけど」

『いや気にしないで』

「じゃ…じゃあ、あたし、この通り沿いのファミレスでバイトしてるので良かったら来て下さい」

かっこよくて優しくて紳士的。
まさに完ぺき
それから2週間。
待てど暮らせど彼は現れなくてあたしの想いは募る一方でした。

「皐~
もう逢えないのかなぁぁ
どうすれば会えるのかなぁ
せめて名前くらい聞いときゃ良かったよ
ああああ」

『幻覚でもみたんじゃなかと
ダイエットのしすぎやで…
そんな完璧な男が現実にいるわけなかろうが…
いたとしたらちょーうさん臭いよ…
マジで…』

だからあの日バイトが終わって店を出て彼が私を待ち伏せしていることに気づいた時にはもうどーにも止まらないくらい恋に落ちていたのです。
彼の薬指には指輪がある事はすぐにバカなあたしでも気づいたけれど気にしない事に決めました。
盛りがついていたと言われればそれまでかもしれないがあたしは彼を本気で愛していたし愛されていると信じていました。

だけど今にして思えばあたしは彼の事は携帯番号しか知らないし何処に住んでるかもしらない。
何処の会社に勤めているのかも…
会えるのは月に2・3回程度だし、会えてもドライブ→ラブホのひたすら密室コースだし。
それでも愛されているなんて勘違いもはなはなだしい感じです。
もしこのまま彼と付き合い続けていたらあたしの青春はどんどんうらぶれて行ったに違いないので別れて幸いだったと前向きに開き直りました。

あたしはこの春から親友の皐と地元の音楽学校へ通い始める予定です。
音楽学校は共学なので素敵な出会いを期待しつつ一生懸命頑張ります!

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